医療情報データの可視化による病院の体質改善と問題点 (独立行政法人 国立病院機構 災害医療センター・300-500床未満)
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医療情報データの可視化による病院の体質改善と問題点
医療機関名 |
独立行政法人 国立病院機構 災害医療センター |
経営主体 |
国公立病院 |
病床規模 |
300-500床未満 |
所属部門 |
情報システム |
投稿者 |
竹迫 直樹(医療情報部) |
公開日 |
2015-04-17 |
- 背景
1.はじめに
医療情報部は病院の中では新しい部門であり、立ち位置は明確ではない。当院では、病院の提供医療サービス・経営情報の収集・分析と評価・提供・戦略的企画立案も役割としている。当院では2011年に電子カルテシステムを導入したが、蓄積されたデータを分析・評価して利用している。今回、電子カルテシステムを用いた業務改善について報告する。
2.医療情報部の役割
現在考えられている医療情報部の役割は 1)院内外の医学情報の収集・分析・評価・提供と利用支援 2)病院の提供医療サービス・経営情報の収集・分析と評価・提供・戦略的企画立案 3)資源(人的、経費的、設備、物品等)の調達・配分に関する情報の収集・分析と評価・提供・戦略的企画立案 4)広報活動・国民(医師等医療スタッフ、患者等利用者、学生、研究者等)への情報提供および外部機関との連携機能に関する戦略的企画立案と実践研究と考えられている。当院では特に2)と3)に力を入れている。
3.医療情報システムの変遷
業務の効率化目的に段階的にさまざまなシステムが導入されてきた(図1)。その中で電子カルテシステムは第3世代の医療システムと考えられている。電子カルテは法制の規制緩和と厚生労働省による政策もあり推進されてきたがさまざまな課題もあり導入に慎重な施設も存在することは事実である1)。また最近ではDPC/PDPSのデータを用いたマネージングシステムおよび地域連携システムも用いられるようになった。
当院の医療情報部は電子カルテシステムによるデータおよびDPC/PDPSのデータを用いてデータの“見える化”にも力を入れている。
4.医療情報の収集・分析・評価・提供
医療情報の“見える化”とは、1)対象(患者・サービス・疾患など)や業務プロセスに関する状態を「見える化」する。2)業務効率などについてパフォーマンスの善し悪しを評価する。3)プロセスの異常(医療安全・感染症など)、パフォーマンスの悪さ(医療材料費など)などの問題点を早期に発見する。と定義している。当院では、電子カルテのデータは医療工学研究所のデータウェアハウスであるCLISTA!SEARCH®を用いてデータ収集を行っている。
加えて、ヒラソル社のDPCデータ分析システムであるgirasol®を用いてDPC/PDPSデータを解析している。また、医事データは日本電気の部門システムであるIBARSII®からも取得している。
- 取り組みの内容
1.原価計算
病院における医業収益は出来高からPDPSに変化してきており、診療の質を保ちつつ経営効率も考える時代になっている2)。それゆえに原価管理も病院経営において重要になってきている(表1)。
病院全体での原価計算だけではどの部位に問題があるのか把握しにくいこともあり、当院では平成24年より診療科別での原価計算を行いどの部分に介入するべきかを検討した。原価の各部門への配賦は図2の方法を用いた。
当院では原価計算は診療各科の評価には用いず、パフォーマンスの良し悪しおよび介入点の解析に用いている。つまり単純化した原価計算表を用いて診療点数増の方向に介入するべきかそれとも変動費(材料費)に介入すべきかを解析した。平成23年度の当院の固定費率は材料費率が31.4%で収益が1.7%であったことより66.9%と考えられた。
平成24年は材料費率が通年で35.1%以上では赤字となることが推定された。この解析により早急に材料費に介入する必要があることが判明した。
2.診療材料費削減
原価計算より材料費に介入する必要が生じたことより医療情報システムを用いて介入点を探ることにした。薬剤は共同購入となっており価格については介入困難と考え在庫について介入することにした。
IBARSII®およびCLISTA!SEARCH®を用いてひと月あたりの薬剤使用量および購入額を照らし合わせた。その結果、採用品目の中で3か月以上購入実績のないものを削減し、同種同効品について統一を図った。
また、後発品が存在する先発品につては削減効果等を提示した。その結果、棚卸金額が約9000万から約5000万まで減少し薬剤回転率の向上が見られかつ後発品使用率が60%以上になった。医療材料費についても購入実績と電子カルテシステムでの使用量を突合させた結果、請求漏れが発生していることが判明した。
また、購入価格についてはマスター整理を行ったうえでMRP社の購入価格ベンチマークシステムを用いて比較検討を行った。その結果、個々の診療材料単価の5%(対平成24年度購入量費)削減を達成した。
3.外来診療のスリム化
平成26年度の診療報酬改正では外来医療の機能分化・連携の推進がうたわれており、大病院の一般外来の縮小の推進および紹介率・逆紹介率の基準の引き上げが示された。また、外来部門は常に混雑しており患者の不満が多い部門でもある。そこで部門別の原価計算を行い、不採算であることを確認したうえでスリム化を行うことにした。
具体的にはどのような患者群を逆紹介すべきかを“見える化”することにより現場の理解を得るようにした。具体的には診療点数別に3群に分けて棒グラフを作成したが分かりづらいため(図3A)、診療点数の低い患者から並べて述べ点数をグラフ化(ナイアガラ分析)した(図3B)。この結果より再診患者を削減しても稼働額にあまり変化がないばかりか外来患者数の削減に結び付くことが判明した。賛同が得られた整形外科では再診患者の逆紹介に努めてもらい前年比で改善した(図4)
4.DPCデータを用いたクリニカルパスイメージ作成
当院では診療情報管理士と共同してDPCデータを用いた診療の“見える化”を行っている。特に診療の効率化に役立つようにクリニカルパスのイメージ作成および電子カルテにおけるパスの作成を行っている(図5)。この方法では単純に在院日数の削減だけでなく使用薬剤、物品等の見直しにつながり経営効率の改善が得られる。
- 取り組み後の状況
1.今後の予定
現在、電子カルテは多くの病院で使用されている。しかしながら、病院間での患者情報の共有までは十分対応していない。
そこで、当院では現在、地域医療連携ネットワークの構築を目指している。院内に公開用のサーバーを置き、必要最小限のデータを公開する予定であり、SS-MIXを用いてデータのバックアップも取り、北海道のデータセンターにバックアップデータを保存している。地域病院診療所のデータも一緒にSS-MIXでバックアップを取ることが可能であり広域災害時の医療データとして利用も可能と考えている。
2.最後に
第三世代の医療情報システムである電子カルテは導入費も高く、ただ日常診療に用いるだけでは費用対効果が低いと考えられるが、データを二次利用し業務改善に利用することにより病院の業務改善に役立つ。今後は、院内だけではなく患者・地域の診療所の利便性も考えたデータの“見える化”が必要と考えられた。
<文献>
1.厚生労働省「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」2001年12月26日(http://www.mhlw.go.jp/shingi/0112/s1226-1.html)
2.あずさ監査法人KPMGヘルスケアジャパン編、病院コストマネージメント-診療科別・疾患別原価計算の実務、2011年12月1日発刊
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