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稲城市立病院「これをやれば削減できる!」というマインドセットを!! 看護部・SPD・事務職の1年間の奮闘記 (稲城市立病院・200-300床未満)

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医療機関名 稲城市立病院
経営主体 国公立病院
病床規模 200-300床未満
所属部門 用度・調達
投稿者 稲城市立病院
公開日 2020-10-22
背景
稲城市立病院の概要
・所在地:〒206-0801 東京都稲城市大丸1171
・診療規模:290床
・診療科目:22診療科
・付属機関:健診センター・坂浜診療所
・医療圏:南多摩医療圏
・診療指定:二次救急医療機関(東京都指定)・災害拠点病院(東京都指定)
支出削減の取り組みの背景
 当院は昭和15年に陸軍造兵廠の多摩病院として設置され、昭和23年に稲城村立稲城病院として開院しました。民間医療機関では対応が難しい不採算医療と言われる、小児・周産期医療、救急医療、緊急時及び災害医療などを自治体病院が担う医療として確保しつつ、地域の医療機関とも連携を図りながら、安心で良質な医療提供に努めております。
 また、当院は診療材料を年間約5億円購買しています。契約は単年の単価契約で、適正価格の根拠をつかめずメーカーとの価格交渉はほとんど行っていませんでした。
 自治体病院共済会がタイアップしているMRPベンチマークシステムを知り、当院の購買状況の分析を依頼した結果、材料の約90%が全国平均以上の単価であり、同社担当から「今までに見たことの無いレベル」と言われてしまいました。
取り組みの内容
1.最初に
 初年度は、当院が購買している約2,000品目の診療材料について、希望額を提示してメーカーに見積りを依頼しました。希望額は、一品ごとのMRPベンチマーク全国平均です。
 全国平均を採用した理由は、(1)初めての価格交渉だから最安値ではなく平均(2)最安値と最高値は外れ値で、真ん中の全国平均額がメーカーに有効であろう、の2つです。
2.交渉前
 担当者としてSPD業務を体験し、現場の勘所をつかむようにしました。また、見積り依頼の結果、希望額に届かなかった全ての品目を個別交渉するのではく、材料費に占める上位50品目を最終的なターゲットにしました。上位50品目が当院の診療材料費の2割(約1億円)を占めるため、2:8の法則(2割の優良顧客が、売上の8割をあげているという法則)にもかなっており、有効であると考えたからです。
 加えて、購買実績が少ない材料の交渉で時間切れになることを避けるためでもありました。
 14メーカー(上位50品目のメーカー)に希望額を伝えところ、ほとんどのメーカーが希望額に届かなかったため、当院で個別の品目ごとにSPD同席のうえで、メーカー・ディーラーと交渉しました。

交渉でのスタンス
1. MRPベンチマークの(1)価格分布と(2)ベンチ履歴(価格の推移)をメーカーに見せる。視覚に訴える。
 価格分布から材料における当院の立ち位置をメーカーに認識してもらう。
 その材料が当院にとってどれだけ重要か、価格分布の購入数(月平均)をもとにメーカーに説明する。
 ベンチ履歴(価格の推移)については、当院の価格変動が全くないことを訴える。(どんな材料でも他メーカー同等品との価格競争や自主回収・欠品による価格変動がありえる。当院の価格変動が全くないのは不自然で、材料の流通状況・価格変動にかかわらず価格見直しのご提案を今まで全くいただけなかったのは誠に残念である旨を話す。)



2. 看護部とSPDとの毎月の定例会でメーカー交渉の進捗状況を共有している。
 定例会で看護部に交渉材料の価格分布とベンチ履歴を見せている。これにより交渉時のヒントを看護部からもらう。

3. 当院希望額とメーカー提示額の差が埋まらない場合、事務長室でメーカーと交渉する。それでも差が埋まらない場合、院長室でメーカーと交渉する。

3.交渉本番
 個別交渉ではメーカーに必ず上記の3点を伝えました。
 そして、看護部と連携するように努めました。当院の看護師がメーカーから「稲城さんが最安です」というフレーズを何度も聞かされていたにもかかわらず、ベンチマーク平均より高い状況に憤慨していました。値下げ交渉の進まないメーカー営業担当者が看護部に挨拶に来たら、看護部に素っ気ない対応をしてもらうようにお願いしたところ、メーカー営業担当者も異変にすぐ気がつきました。
 また、他社との交渉状況を伝えることも有効です。特に同等品を扱うメーカー間で横並びの意識が働くのか、1社でも希望額による妥結ができれば、他メーカーにも波及効果がでます。「〇〇社さんはもう妥結しましたよ。残りは御社を含め3社です。」とメーカーに伝えた翌日、すぐに希望額まで値下がりしました。
取り組み後の状況
4.交渉結果
 毎月の看護部とSPDとの定例会で削減効果を共有し、平成31年度の最終的な削減効果は約21,000,000円となりました。
 これはMRPベンチマークを事務部だけで完結させないで、看護部と共有できたためと考えています。また、定例会に参加していない看護師からもMRPベンチマークを見たいと声をかけられるようになりました。

取り組み後の状況
 メーカーと価格交渉をするうちに、価格はメーカーによる当院の評価のあらわれであり、いかに当院を重要な取引先と捉えるかが鍵なのではと考えるようになりました。したがって、患者数を増やす取組みを実施し、価格交渉後もメーカーに当院が患者数増に取組んでいる施設であることをPRしました。
 患者数を増やす取組みについては、厚生労働省の「医療広告ガイドライン」に基づき、3つの方法で行いました。

1.地元の駅(JR南武線南多摩駅)のベンチに、新たな看板を設置しました。特徴としては、集客効果の高いデザインを目指し、駐車場の台数を記載しました。
2.路線バスのアナウンスをはじめました。アナウンスの内容については、地域のクリニックに影響の無いようすみ分けを重視した「24時間営業」を枕詞に、病院の停留所ではなく利用客の多い停留所でアナウンスするよう工夫し、「刷り込み効果」を狙っています。
3.地域のケーブルテレビ局(多摩テレビ)と協働してCMを作成しました。勿論、ガイドラインを遵守し、地域に根差した歴史ある病院として紹介しています。

5.終わりに
 振り返ってみれば、当初の削減企画の段階から、前述した毎月の定例会でヒントをもらい、計画を立てることができ、その後も計画を具体化する過程や実行中においても、定例会での議論がとても重要な役割を果たしていました。
 つまり、定例会の参加者一人一人が他人事ととらえず「これを実行すれば削減可能である」と、皆が納得する計画を当初に作成できたことで、「これをやれば削減出来る!」という共通のマインドセットになったことが、様々な障壁を突破し成功した最大の要因であったと思います。
 今後も削減できた材料費を原資に、新型コロナ対策や収益増につながる新規事業に投資をして、さらなる病院の成長を目指していきたいと思います。



※本稿は、自治共ニュース10月号支出削減の取り組み事例に掲載した稲城市立病院の事例を、医療手帖編集部で編集したものです。
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稲城市立病院

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