SECIモデル導入による事務職に対する経営改善の実践 (淀川キリスト教病院・500床以上)
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SECIモデル導入による事務職に対する経営改善の実践
医療機関名 |
淀川キリスト教病院 |
経営主体 |
宗教法人 |
病床規模 |
500床以上 |
所属部門 |
医事 |
投稿者 |
北村 臣(事務部医事課) |
公開日 |
2015-07-10 |
- 背景
はじめに
現在、多くの医療機関は急激な変化の波にさらされ、経営環境を改善すべく多くの取り組みを行っている。医療機関のなかでも急性期病院は、入院期間が短く入退院が激しい。医療機関は多職種が専門職として関わっており、それぞれが専門性を活かし医療を提供することが要求される。そこで、入退院時の事務的業務のみならず入院患者に対する事務的業務は病棟クラークが担う重要な役割である。
目的
当院は、ICU病床12床を含む630床の急性期病院である。2014年3月の病床稼働率は95.8%であり、現場である病棟は多忙である。平均在院日数は、12.7日のため、入退院も激しい。
その多忙な病棟における事務的業務は病棟クラークが全て担っている。病棟の事務的業務は、(1)患者ごとに発生する多くの書類整理、(2)各部署からの電話対応、(3)病棟窓口対応、(4)退院患者への医療費説明、(5)面会者への病棟案内など、これ以外にも多岐にわたる。もし、病棟クラークが不在の場合はそれら事務的業務を病棟看護師が担当することになる。加えて当院は全ての土曜日が開院日であるが、スタッフは週休2日制のため、専任の病棟クラークが休暇(代休)の日は病棟看護師が代わりを務めざるを得ない状況であった。こうして、病棟看護師が本来の業務に専念できない状況が発生していたため、病棟クラークの経営改善を行うことで病棟運営をスムーズに行うことを目的とした。
- 取り組みの内容
- 2014年6月に人的資源を十分に確保・活用するため病棟クラークの増員を行い、4病棟を1つのグループとし、5人のクラークで担当した。その5人の内、1人を病棟グループリーダに任命し、病棟グループリーダは4病棟いずれも担当できる体制を構築した。病棟クラークごとに業務の精度差が生じさせない仕組みを検討した。様々な知識が分散し、病棟クラークごとに知識レベルが異なっていることが想定されたため、SECIモデル導入が有効と判断し活用した。
SECIモデルとは?
野中(1996)によると、暗黙知と形式知の継続的な相互交換によって知識は生成され、変化し続けるのであり、その意味でプロセスである(野中、1996、91頁)。この暗黙知と形式知の継続的な相互変換は、「共同化(
Socialization)」「表出化(
Externalization)」「連結化(
Combination)」「内面化(
Internalization)」という四つの変換モードからなる知識創造モデルによって表される(図1参照)。
「共同化(Socialization)」とは、経験を共有することによって、メンタル・モデルや技能などの暗黙知を創造するプロセスである。
「表出化(Externalization)」とは、暗黙知を明確なコンセプトに表すプロセスである。表出化は、典型的にはコンセプト創造に見られ、対話すなわち共同思考によって引き起こされる。
「連結化(Combination)」とは、コンセプトを組み合わせて一つの知識体系を創り出すプロセスである。この知識変換モードは、異なった形式知を組み合わせて新たな形式知を創り出す。
「内面化(Internalization)」とは、形式知を暗黙知へ体化するプロセスである。それは、行動による学習と密接に関連している。
こうして、知識創造を組織的に行うためには、個人に蓄積された暗黙知を共同化を通じて他の組織メンバーとの間で共有し、新しい知識スパイラルのきっかけとする必要がある。組織的知識創造とは、暗黙知と形式知が四つの知識変換モードを通じて、絶え間なくダイナミックに相互循環するプロセスである。四つの知識変換のモードは、それぞれを引き起こす引き金を持っている。
SECIモデルの具体化
(1)表出化にて、病棟クラークリーダがそれぞれの病棟業務に従事し業務の問題点を言語化する。つまり、暗黙知を形式知へと変換する。
(2)連結化にて、主担当ではない病棟クラークリーダと主担当である病棟クラークが対話する。他病棟との相違点を理解し標準化が可能か検討する。
(3)内面化にて、病棟クラークリーダは実践的な現場改善策を病棟責任者(看護師)に提言する。提言を受けた病棟責任者(看護師)は、改善を病棟看護師に実践を働きかけ形式知を暗黙知化させる。
(4)共同化にて、病棟スタッフは業務改善を行った経験を振り返り(省察)、無意識の部分を意識して整理する。
上記、SECIモデルをスパイラルさせ業務改善を行い、常に学習する組織へと変換させて、淀川キリスト教病院の永続的な発展につなげる(図2参照)。
こうして、業務知識をスパイラルさせ、他の病棟にも活用できる有益な知識へと昇華させる。
- 取り組み後の状況
- 結果、病棟クラーク業務の人的補償に留まらず、良い知識を共有し合える環境を構築することができた。2014年7月から三ヶ月間継続して大阪医事研究会参加病院中、一番高い病床稼働率にも関わらず、病棟クラークにより病棟運営は大きな問題もなく行えている。
改善の実例
(A)個室希望患者が病棟に上がってきてから個室料金に対する同意書が取得できていないケースが発生していた。病棟ごとにケースを分析し、入院時説明を徹底できる様に改善を図った。
(B)看護必要度は看護師がチェックしている。前日の特殊治療(例:リニアック治療)は、病棟クラークも把握している情報であり、チェック漏れを防ぐ目的で看護師に報告する運用とした。
(C)無保険患者が存在した際は、退院時に保険加入について患者と面談を行っていた。この結果、無保険に対するアプローチが遅れ、多額の未収金が発生していた。そこで、無保険患者の入院は緊急入院が多いため発覚した際には医師・看護師を含めた医療スタッフと情報共有し対応する運用とした。新運用後は、入院日から無保険に介入するため、未収が大幅に減少することとなった。
考察
医療スタッフの業務遂行を滞らせる病棟クラークは不要である。医療スタッフは、自らの業務を効率良く遂行させるため、病棟クラークへ要望する事項は多岐にわたる。要望がエスカレートし、病棟ごとの個別ルールに至ることも多い。個別ルール存在が代理病棟クラークの介入を病棟が拒絶する悪循環に陥っていた。知識を独占化させるのではなく、共有可能な組織体系に変革させたことが病棟運営の改善と病棟クラークの経営的改善につながった。
また、病棟クラークの職務満足度も向上している。これまでは、有給の取得が困難であったが、今回の改善によって適切な有給取得につながっている。
まとめ
SECIモデル導入により経営改善を行った病棟クラークは、スムーズな病棟運営に貢献した。
【参考文献】野中郁次郎,竹内弘高:知識創造企業,91頁,東洋経済新報社,1996年
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